物理ノート

サイエンス社「数理科学」SGCライブラリの読書メモ

超幾何関数入門

SGCライブラリ - 55

超幾何関数入門

特殊関数への統一的視点からのアプローチ

木村弘信 著

2007年5月25日 初版発行

初等関数

複素数  {z} に対して

 {\displaystyle e^z := 1 + \frac{1}{1!}z + \frac{1}{2!}z^2 + \cdots + \frac{1}{n!}z^n + \cdots}

は、任意の複素数  {z} に対して収束し、複素平面  {\mathbb{C}} における正則関数を表す。(指数関数)

関数  {w(z) = u(z) + iv(z)}

 {e^w = e^u(\cos v + i\sin v) = z}

を満たすものとして定義する。

  •  {e^u = |z|}
  •  {\displaystyle \cos v + i\sin v = \frac{z}{|z|}}

このとき、 {u} {u = \log|z|} により一通りに定まる。(対数関数)

 {\mathrm{Log}\,z = \log|z| + i\mathrm{Arg}\,z}

  •  {\mathrm{Log}\,z}:主値
  •  {\mathrm{Arg}\,z}:偏角

対数関数  {\mathrm{Log}\,z}

 {\displaystyle \mathrm{Log}\,z = \int_{C_z}\frac{1}{u}du}

で与えられる。

ここで  {C_z} {1} を始点とし、 {z} を終点とする  {\mathbb{C}\backslash(-\infty,0]} 内の路で、積分値は  {C_z} の定める  {1} {z} に結ぶ路のホモトピー類にのみよる。

 {a \in \mathbb{C}} を指数とするベキ関数は以下で与えられる:

 {z^a = e^{a\log z}}

ベータ関数、ガンマ関数、ガウス積分

ベータ積分: {\displaystyle B(a,b) := \int_0^1u^{a-1}(1 - u)^{b-1}du}

ベータ積分は領域  {\{(a,b) \in \mathbb{C}^2\,|\,\mathrm{Re}\,(a) \gt 0,\,\mathrm{Re}\,(b) \gt 0\}} で広義一様に収束し、そこで   {(a,b)} についての正則関数を与える。

これをベータ関数という。

ガンマ積分: {\displaystyle \Gamma(a) = \int_0^{\infty}e^{-u}u^{a-1}du}

ガンマ積分は  {\mathrm{Re\,(a) \gt 0}} で広義一様収束し、そこで正則関数を表す。

これをガンマ関数という。

ガンマ関数  {\Gamma(a)} は自然数  {\mathbb{N}} で定義された関数である階乗  {n \mapsto n!} を複素平面の  {\mathrm{Re}\,(a) \gt 0} という領域に正則関数として延長したものと思うことができる。

 {\mathrm{Re}\,(a) \gt 0} のとき、以下が成り立つ。

 {\Gamma(a + 1) = a\Gamma(a),\quad \Gamma(1) = 1}

特に、自然数  {n} に対して

 {\Gamma(n + 1) = n!}

である。

ベータ関数とガンマ関数の間には、次の関係が成り立つ。

両辺が共に正則な範囲で次が成り立つ:

 {\displaystyle B(a,b) = \frac{\Gamma(a)\Gamma(b)}{\Gamma(a + b)}}

次の公式は反転公式とも呼ばれる。

ガンマ関数について、次の2次関係式が成り立つ。

 {\displaystyle \Gamma(a)\Gamma(1 - a) = \frac{\pi}{\sin\pi a}}

ガンマ関数についての2次関係式を用いると、ベータ関数についても同様な関係式を得ることができる。

ベータ関数について、次の2次関係式が成り立つ。

 {\displaystyle B(a,b)B(-a,-b) = \pi\left(\frac{1}{a} + \frac{1}{b}\right)\frac{\sin\pi(a + b)}{\sin\pi a \cdot \sin\pi b}}

ガウスの超幾何関数とその一族

ガウスの超幾何関数とその合流型関数はすべて、複素数  {x} を独立変数とし、 {y} を未知関数とする2階線形微分方程式

 {y^{\prime\prime} + p(x)y^{\prime} + q(x)y = 0\tag{A}\label{A}}

の解として特徴づけられる。

方程式 \eqref{A} において、 {p(x),\,q(x)} {|x - a| \lt R} で正則とする。

このとき、任意に与えられた  {b_1,b_2 \in \mathbb{C}} に対して、初期条件

 {y(a) = b_1,\quad y^{\prime}(a) = b_2}

を満たす正則解  {y(x)} {|x - a| \lt R} で唯一つ存在する。

\eqref{A} の解全体は  {\mathbb{C}} 上の2次元ベクトル空間をなす。

方程式 \eqref{A} の解空間の基底  {y_1(x),\,y_2(x)} を成分とするベクトル  {Y(x) = (y_1(x),y_2(x))} を、方程式 \eqref{A} の基本解、あるいは解の基本系という。

方程式 \eqref{A} が  {a} に特異点を持つ場合を考える。

  •  {p(x)} {q(x)} {D = \{0 \lt |x - a| \lt R\}} で正則で、いずれかが  {x = a} に極を持つとする。
  •  {x_0 \in D} をとり、 {x_0} を始点として  {a} を正の向きに1回まわり再び  {x_0} に戻る路を  {\gamma} とする。
  •  {Y(x) = (y_1(x),y_2(x))} {x_0} における解の基本系とする。
  •  {\gamma} に沿って解析接続して得られる解を  {Y^{\gamma}(x) = (y_1^{\gamma}(x),y_2^{\gamma}(x))} とする。

解空間の基底の変換として、

 {Y^{\gamma}(x) = Y(x)M(\gamma)}

によって  {x} によらない定数行列  {M(\gamma) \in \mathrm{GL}(2)} が定まる。

 {M(\gamma)} {\gamma} {D} 内でのホモトピー類のみによって決まり、 {\gamma} に対する回路行列という。

任意の  {M \in \mathrm{GL}(2)} に対して、 {e^{2\pi iL} = M} となる  {L \in \mathrm{Mat}(2)} が存在する。

解の基本系  {Y(x)} に対する回路行列  {M = M(\gamma)} に対して、 {e^{2\pi iL} = M} を満たす行列  {L \in \mathrm{Mat}(2)} を1つとっておく。

解の基本系  {Y(x)} に対して、 {D} において一価正則関数を成分とするベクトル  {Z(x) = (z_1(x),z_2(x))} が存在して

 {Y(x) = Z(x)(x - a)^L}

と表すことができる。

ここで、

 {(x - a)^L := e^{L\log(x - a)}}

である。

 {Z(x)} {x = a} を高々極に持つとき、 {x = a} を方程式 \eqref{A} の確定特異点といい、そうでないとき不確定特異点と いう。

方程式 \eqref{A} が  {x = a} を確定特異点として持つとする。

このとき、次の形の基本解  {Y(x) = (y_1(x),y_2(x))} がとれる:

  • Case 1:
    •  {y_1(x) = (x - a)^{\lambda_1}\phi_1(x)}
    •  {y_2(x) = (x - a)^{\lambda_2}\phi_2(x)}
    •  {\phi_1(x),\,\phi_2(x)} は、 {x = a} で正則で、 {\phi_1(a)\cdot\phi_2(a) \neq 0} を満たす。
  • Case 2:
    •  {y_1(x) = (x - a)^{\lambda_1}\phi_1(x)}
    •  {y_2(x) = (x - a)^{\lambda_2}\phi_2(x) + (x - a)^{\lambda_1}\phi_1(x)\log(x - a)}
    •  {\phi_1(x),\,\phi_2(x)} は、 {x = a} で正則で、 {\phi_1(a)\cdot\phi_2(a) \neq 0} を満たす。
    • Case 2 は  {\lambda_1 - \lambda_2 \in \mathbb{Z}} の場合にのみ起こる。

 {\lambda_1,\lambda_2 \in \mathbb{C}} を方程式 \eqref{A} の  {x = a} における特性指数という。

方程式 \eqref{A} の特異点  {x = a} が確定特異点ならば、 {(x - a)p(x),\,(x - a)^2q(x)} {x = a} で正則である。

グラスマン多様体上の超幾何関数

一般超幾何関数の対称性

隣接関係