計算神経科学への招待
SGCライブラリ - 60
計算神経科学への招待
脳の学習機構の理解を目指して
銅谷賢治 著
2007年12月25日 初版発行
はじめに:脳を見る座標軸
脳機能を理解するための空間スケール:
- 行動とモジュールのレベル
- 局所回路のレベル
- ニューロンのレベル
- シナプスのレベル
- 分子のレベル
進化と発達のスケール:
- 無脊椎動物の神経系
- 脊椎動物の神経系
- 小脳
- 大脳基底核
- 海馬
- 大脳新皮質
ニューロンのモデル
McCulloch–Pitts モデル
ニューロンを か かの出力を取る論理素子としてモデル化し、それによる計算の可能性を理論化する。
- 入力:
- 各入力のシナプスの強さ(荷重):
- 出力:
- 閾値関数:
- 閾値:
シナプス荷重 や閾値 をいろいろ設定することにより、AND、OR、NOT などの論理素子を構成することができる。
発火頻度モデル
感覚ニューロンや運動ニューロンでは、感覚刺激や運動出力の強さが、スパイク発火の周波数とほぼ比例した関係にあることが知られている。
発火頻度を変数としたモデルでは、ニューロンの出力 は、入力値 の重み付き線形和をある出力関数 に通したもので与えられる。
出力関数としては、最大発火頻度を としたシグモイド関数が最も一般的に使われる。
ニューロン素子を複数並列に並べ、多段に結合したネットワークでは、その結合荷重 を適当に設定することで、任意の非線形関数を近似することができる。
各ニューロンに時間遅れや積分などのダイナミクスを持たせ、ループ結合を含むネットワークを構成すれば、様々な動的な振る舞いを再現することができる:
- 離散時間:
- 連続時間:
スパイクタイミングモデル
スパイクは入力に対して確率的に生成されるというモデルを考える。
ニューロンはその発火頻度 に従い、独立にランダムにスパイクを生成する。(ポアソンスパイクモデル)
有限の時間 の間に 個のスパイクが出力される確率は、Poisson 分布で与えられる。
スパイクのタイミングのばらつきを測る基準として、CV (coefficient of variation) がよく用いられる。
- :スパイク間隔の平均
- :スパイク間隔の標準偏差
- ポアソンモデルでは となる。
大脳皮質ニューロンでは CV 値は に近いものが多く、ポアソンモデルは良い近似になっている。