量子力学の考え方
SGCライブラリ - 68
量子力学の考え方
物理で読み解く量子情報の基礎
根元香絵 著
2009年1月25日 初版発行
量子系の状態表示
量子力学では系の状態はヒルベルト空間のベクトルとして記述される。
完全正規直交系 で張られるヒルベルト空間で記述される物理系の一般的な状態は、規格化条件
を満たす線形結合で表される。
この正規直交ベクトルは、物理系の互いに区別できる状態にそれぞれ対応する。
係数の2乗がその状態に見出される確率であり、係数は確率振幅と呼ばれる。
量子力学の基本法則として、量子状態を表す波動関数はシュレディンガーの波動方程式を満たす。
- :物理系の全エネルギーを表すハミルトニアン
- :プランク定数 を で割った定数
ハミルトニアン のエネルギー固有値を とすると、これらのエネルギー固有値に対応する固有状態 は、固有方程式
を満たす。
固有状態の集合 は正規直交系として物理系を記述するのに必要なヒルベルト空間を張り、一般的な状態はこれらの状態の重ね合わせで表される。
このような重ね合わせの状態にある場合にエネルギーを測定すると、測定結果は重ね合わせの係数が与えるように確率的になる。
物理系の状態表示
簡単な量子系として、量子ビット(qubit)1つについて考える。
量子ビット系は2つの古典的に区別できる状態からなる。
2つの状態 によって張られるヒルベルト空間が1量子ビットの状態空間である。
1量子ビットの任意の状態は の線形結合で表される:
または
は を満たす複素数である。
ハミルトニアンの時間発展
ユニタリー演算子は一定の時間発展を表し、その作用によって状態が初期状態から終状態へ変化する。
1つの量子ビット上のゲート演算
- ビットフリップゲート:$$X = \begin{pmatrix} 0 & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix}$$
- ゲート:$$Z = \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & -1 \end{pmatrix}$$
- 位相ゲート:$$S = \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & i \end{pmatrix}$$
- ゲート:$$T = \exp(i\pi/8)\begin{pmatrix} \exp(-i\pi/8) & 0 \\ 0 & \exp(i\pi/8) \end{pmatrix}$$
- Hadamard ゲート:$$H = \frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 1 & -1 \end{pmatrix}$$
2つの量子ビット上のゲート演算
- Controlled-Not ゲート:$$CNOT = \begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \end{pmatrix}$$
CNOT ゲートの演算規則
input | output |
---|---|
00 | 00 |
01 | 01 |
10 | 11 |
11 | 10 |
1番目の量子ビットをコントロールビット、2番目の量子ビットをターゲットビットと言って、1番目の量子ビットの状態に応じて2番目の量子ビットの状態を変化させる。
量子系とコヒーレント状態
自由空間の電磁波はマクスウェルの方程式に従う。
クーロンゲージ:
長さ の立方体の中で電磁波が存在していると考える。
- :波数ベクトル
- : に直交する変更ベクトル
電磁場のハミルトニアン:
ハミルトニアンは独立な調和振動子の集まりとして考えることができる。
はカノニカルな量なので、交換関係 として量子化する。
演算子 は消滅・生成演算子:
コヒーレント光
光子数演算子を 、消滅・生成演算子をそれぞれ とする。
消滅演算子 の固有方程式:
固有状態 はレーザーから発振されるコヒーレントな光の状態を表していると考えることができ、コヒーレント状態と呼ばれる。