弦理論の代数的基礎
SGCライブラリ - 89
弦理論の代数的基礎
環・加群・圏から位相的弦理論,ミラー対称性へ
高橋篤史 著
2012年4月25日 初版発行
環論の基礎
これらが以下の性質をみたすとき、集合 を環(ring)という。
- は単位元 を持つ加法群である。
- 積 について分配法則が成立する。
- は単位元 を持つ半群である。
任意の に対して となるとき、環 を可換環(commutative ring)という。
任意の に対して二項演算 を で与えると、 は加法群 に積を定める。このようにして得られる環を であらわし、 の反転環(opposite ring)という。
写像 が以下をみたすとき、 は環 から環 への環準同型(ring homomorphism)であるという。
から への環準同型全体のなす集合を であらわす。
から への環準同型とは「テスト空間 による標的空間 への衝突実験」のようなものである。
を可換環とする。
環準同型 が与えられた環 のことを -代数(k-algebra)という。
-加群(R-module) とは以下で構成されるものである。
- 単位元 を持つ加法群
- 積と呼ばれる写像 で以下の等式をみたすもの:
を -加群とする。
写像 が以下の等式をみたすとき、 は から への -準同型(R-homomorphisim)である。
から への -準同型全体のなす集合を であらわす。
を -準同型とする。
- が集合の写像として単写像のとき、 は単写(injective)であるという。
- が集合の写像として全写像のとき、 は全射(surjective)であるという。
- に対して、-準同型 で および が成立するものが存在するとき、 を -同型(-isomorphism)という。
- -加群 を の核(kernel)といい、 であらわす。
- -加群 となる が存在する を の像(image)といい、 であらわす。
- -加群 を の余核(cokernel)といい、 であらわす。
- -加群 を の余像(coimage)といい、 であらわす。
を -準同型としたとき、自然な -準同型 は同型である。(準同型定理)
を集合 で添え字づけられた -加群の族とする。
- の積(product):
- の余積(coproduct): 有限個の を除いて
とくに のとき、 を 、 を とあらわす。
集合 で添え字づけられた の元の集合 および -同型 が存在するとき、 は自由(free)であるという。
とおく。
集合 で添え字づけられた の元の集合 および -同型 が存在するとき、 は余自由(cofree)であるという。
テンソル積
を -加群、 を -加群とする。
直積集合 で添え字づけられた自由 -加群 を考える。
以下で与えられる の元で生成される部分 -加群を とする:
このとき、-加群 を と の 上のテンソル積(tensor product over ) といい、 であらわす。
また、元 の における像を であらわす。
圏と函手
圏(category) は以下のもので構成される:
- 対象(object)の集合 および射(morphism)の集合
- 写像 および写像 で、 かつ となるもの
- 任意の対象 に対して定まる合成写像(composition map):
- 結合法則:任意の射 に対して、 が成立する。
- 単位法則:任意の射 および に対して、 および が成立する。
の部分集合
普遍集合:通常の数学を自由に展開できる十分に大きな集合
を普遍集合とする。