物理ノート

サイエンス社「数理科学」SGCライブラリの読書メモ

超弦理論の応用

SGCライブラリ - 93

超弦理論の応用

物理諸分野での AdS/CFT 双対性の使い方

夏梅誠 著

2012年9月25日 初版発行

一般相対論とブラックホール

物質場がないときのアインシュタイン方程式

 {\displaystyle R_{\mu\nu} - \frac{1}{2}g_{\mu\nu}R = 0}

シュワルツシルド・ブラックホール

 {\displaystyle ds^2 = -\left(1 - \frac{2GM}{r}\right)dt^2 + \frac{dr^2}{1 - \frac{2GM}{r}} + r^2d\Omega_2^2}

  •  {d\Omega_2^2 := d\theta^2 + \sin^2\theta d\varphi^2} は半径  {1} {S^2} の面積要素
  •  {r \to \infty} で計量は平坦な時空  {ds^2 \to -dt^2+ dr^2 + r^2d\Omega_2^2} に近づく。
  •  {M} はブラックホールの質量を表す。
  • 計量  {g_{00} = 0} となる  {r_0 = 2GM} がホライズンである。
  •  {r = 0} は時空特異点と呼ばれ、重力が無限に強くなる。

クリスカル座標  {(u,v)}

 {\displaystyle
r \gt r_0
\begin{cases}
u = \left(\frac{r}{r_0} - 1\right)^{1 / 2}e^{r/(2r_0)}\cosh\left(\frac{t}{2r_0}\right) \\
v = \left(\frac{r}{r_0} - 1\right)^{1 / 2}e^{r/(2r_0)}\sinh\left(\frac{t}{2r_0}\right)
\end{cases}
}

 {\displaystyle
r \lt r_0
\begin{cases}
u = \left(1 - \frac{r}{r_0}\right)^{1 / 2}e^{r/(2r_0)}\sinh\left(\frac{t}{2r_0}\right) \\
v = \left(1 - \frac{r}{r_0}\right)^{1 / 2}e^{r/(2r_0)}\cosh\left(\frac{t}{2r_0}\right)
\end{cases}
}

 {\displaystyle ds^2 = \frac{4r_0^3}{r}e^{-r/r_0}(-dv^2 + du^2) + r^2d\Omega_2^2}

 {\displaystyle \left(\frac{r}{r_0} - 1\right)e^{r/r_0} = u^2 - v^2}

  •  {r = r_0} で計量に特異性はない。 {r = 0} には特異性が残る。
  • ヌル世界線  ds^2 = 0 {dv = \pm du} である。
  •  {r =} 定数の線は、双曲線である。
  •  {r = r_0} のホライズンはヌル世界面である。つまり、ホライズンは光円錐そのものである。
  •  {r \lt r_0} では、 {r =} 定数の線は空間的になる。
  •  {t =} 定数の線は直線である。特に、 {t \to \infty} {u = v} である。

ホライズンに落ちた粒子は逃れられず、必然的に特異点に到達する。

ブラックホールと熱力学

物質がブラックホールに落ち込むと、ホライズンの面積は増大する。

 {\displaystyle A = 4\pi r_0^2 = \frac{16\pi G^2M^2}{c^4}}

ブラックホールはたとえ当初は非対称な形をしていても、最終的には球対称なものに帰着する。

ホライズン  {r = r_0} での重力加速度を表面重力  {\kappa} という。

 {\displaystyle \kappa = \frac{GM}{r_0^2} = \frac{c^4}{4GM}}

物質の量子効果を考えると、ブラックホールは黒体放射を起こす。(ホーキング放射)

 {\displaystyle k_{\mathrm{B}}T = \frac{\hbar\kappa}{2\pi c} = \frac{\hbar c^3}{8\pi GM}}

熱力学の第1法則  {dE = TdS} との比較により、ブラックホール・エントロピー  {S_{\mathrm{BH}}} が得られる。

 {\displaystyle d(Mc^2) = \frac{\kappa c^2}{8\pi G}dA}

 {\displaystyle S_{\mathrm{BH}} = \frac{A}{4G\hbar}k_{\mathrm{B}}c^3 = \frac{1}{4}\frac{A}{l_{\mathrm{pl}}^2}k_{\mathrm{B}}}

  • プランク長さ: {l_{\mathrm{pl}} = \sqrt{G\hbar/c^3} \approx 10^{-35}\,\mathrm{m}}

強い相互作用とゲージ理論

ラージ  {N_c} ゲージ理論

 {U(N_c)} ゲージ理論で  {N_c} が大きい場合を考える。

理論の独立なパラメータとして  {N_c} とトホーフト結合定数  {\lambda := g_{\mathrm{YM}}^2N_c} を使う。

ラージ  {N_c} 極限: {\lambda} を大きな値に固定しつつ  {N_c \to \infty}

場の理論を使って振幅を求めるためのファインマン・ルール:

  • プロパゲーターには  {\lambda / N_c} の因子を付与する。
  • 相互作用を表す「頂点」には  {N_c / \lambda} の因子を付与する。
  • 「ループ」には  {N_c} の因子を付与する。

頂点の数を  {V}、プロパゲーターの数を  {E}、ループの数を  {F} とすると

 {\displaystyle \left(\frac{N_c}{\lambda}\right)^V\left(\frac{\lambda}{N_c}\right)^EN_c^F = \lambda^{E - V}N_c^{V - E + F}}

ラージ  {N_c} 極限では、平面上に書ける(プラナー)ダイアグラムが支配的になる。

プロパゲーターの数  {E}、ループの数  {F} をそれぞれ2次元面の辺の数、面の数としてみると、 {N_c} のベキはオイラー標数  {\chi = V - E + F} であり、トポロジカル不変量である。

ハンドルの数(ジーナス)を  {h} とすると、 {\chi = 2 - 2h}

真空ダイアグラムの足し上げは分配関数:

 {\displaystyle \ln Z_{\mathrm{gauge}} = \sum_{h = 0}^{\infty}N_c^{\chi}f_h(\lambda)}

ラージ  {N_c} 極限では、分配関数は2次元面のトポロジーの足し上げとして表される。

弦理論の摂動展開も、2次元面のトポロジーの足し上げとして表されるので、2つの理論は同等で分配関数も等価だと考えられる:

 {Z_{\mathrm{gauge}} = Z_{\mathrm{string}}}

AdS/CFT へと至る道のり

AdS 時空

AdS/CFT–平衡系の場合

AdS/CFT–プローブを加えた場合

非平衡系への導入

AdS/CFT–非平衡系の場合

クォーク・グルーオン・プラズマへの応用

相転移の初歩

AdS/CFT–相転移