粗幾何学入門
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粗幾何学入門
「粗い構造」で捉える非正曲率空間の幾何学と離散群
深谷友宏 著
2019年9月25日 初版発行
距離空間の粗同値と擬等長同型
無限に広がりを持つ距離空間から局所的な情報を棄て去り、「遠くから眺めてみたときに見えてくる構造」を調べる。
例えば整数全体のなす集合と実数全体のなす集合はどちらも「遠くから眺めると直線に見える」という意味で同一視される。
粗同値
- 2 つの写像 は、ある定数 が存在して、任意の に対し、 となるとき、近いと定め、 と表す。
- 2 つの粗写像 と で、合成 及び がそれぞれ恒等写像 及び と近いものが存在するとき、距離空間 と が粗同値であると定め、 と表す。
群の幾何学化
を群とする。
ある有限部分集合 が存在して、任意の元 は に属する有限個の元の積で表されるとき、 は有限生成である、と定める。
幾何学的に定めた距離:
- 連結グラフ
- 重み:
- 道:
- の重み付き長さ:
- 距離:
- 群 の生成系 に関するケイリーグラフ
- 頂点集合:
- 辺集合:
- は距離空間となる。ただし、重みは定数関数 1 を用いる。
代数的に定めた距離:
- 語長:
- 語距離:
- 語距離が定める位相は離散位相である。
有限生成群 の生成系 に関する語距離は、同じ生成系から構成したケイリーグラフ から得られるものと一致する。
有限生成群の上に幾何学的に定めた距離と代数的に定めた距離が巨視的に見ると一致する:シュバルツ、ミルナーの定理
距離空間の増大度
2 つの距離空間が粗同値であることを示すには、その間の粗同値写像を作ってしまえばよい。
一方で粗同値にならないことを示すには、2 つの空間を区別する何らかの尺度が必要である。
増大度
関数 の同値類を の増大度と呼び で表す。
距離空間 は、ある定数 が存在して任意の異なる 2 点 に対し、 が成立するとき、一様に離散的であるという。
任意の自然数 に対して が成り立つとき、 は有界幾何学を持つという。
一様に離散的で有界幾何学を持つ距離空間 に対し、基点 を固定して関数 を で定める。
関数 の増大度を の基点 に関する増大度と呼び、 と表す。
2 つの一様に離散的で有界幾何学を持つ距離空間 と が擬等長であれば、 と の増大度は等しい。
特に増大度は基点の取り方に依存しない。