高次元共形場理論への招待
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高次元共形場理論への招待
3 次元臨界 Ising 模型を解く
中山優 著
2019年10月25日 初版発行
共形対称性とは?
次元 Euclid 空間における無限小共形変換の生成子:
- 並進:
- 回転:
- 拡大:
- 特殊共形変換:
生成子の交換関係:
Euclid 空間上の共形代数は と同型である。
次元Euclid 空間上の共形代数は次元 の単純 Lie 代数をなす。
統計物理学と共形対称性
Ising 模型:
臨界温度 でのスピン変数 に対する長距離極限 における 2 点相関関数の「べき」的な振る舞いから を定義する。
としたまま、温度が から微小に外れた時の での 2 点相関関数の振る舞い から求まる相関長を特徴付ける を導入する。
臨界現象の普遍性:臨界指数は物質の詳細によらずに同じ値である。
3 次元の臨界 Ising 模型と同じ普遍性を持っているクラスに対しては、共形対称性が備わっているおかげで、臨界指数がおそらく無限の精度で決定されてしまっている。
3 次元 Ising 模型の臨界現象を記述する固定点にあると期待される演算子:
- で符号を変える relevant な演算子
- 外部磁場に対応したスピン演算子
- で不変な relevant な演算子
- 温度に対応したエネルギー演算子
素粒子物理と共形対称性
素粒子理論の最大の時空の対称性は共形対称性である。
代数として、共形代数を含み、スピンが 2 よりも大きな保存カレントを持つ対称性演算子が存在する理論は存在してもよいが、その相関関数は必ず自由場のものと等しくなる。
共形対称性と保存則
次元の Poincaré 対称性を持つ相対論的な場の理論を考える。
- 並進:
- 回転:
共形対称性には、Poincaré 対称性に加えて、拡大と特殊共形変換が加わる。
- 拡大:
- :スケール次元(共形対称性がある場合は共形次元)
特殊共形変換の変換性は微分と交換しないため、統一的に表示することが難しい。
プライマリー場の変換性:
- 特殊共形変換:
プライマリー場の微分(ディセンダント場)はプライマリー場と同じような変換性をしない。
共形対称性と Noether の定理
古典的な作用が共形変換で不変な時、「共形場理論のエネルギー運動量テンソルは対称でトレースレスである」という命題が成り立つ。
Weyl 対称性と共形対称性
曲がった時空上で一般座標変換不変性を課した場の理論を考える。
- 計量:
- 世界線の長さ:
古典論において理論が Weyl 変換で不変であるとは、以下の変換で作用が不変であることをいう。
- 計量の Weyl 変換:
- 場の Weyl 変換:
- :場の Weyl 次元
Zumino の定理
一般座標変換と Weyl 変換で不変な理論は、Minkowski 時空で共形対称性を持つ。
演算子と状態
プライマリー演算子 の共形変換性:
と は に関する昇降演算子と解釈できる。
2 つの状態空間
今考えている共形場理論が Weyl 対称性を持つと仮定する。
次元 Euclid 空間を Weyl 変換することで Euclid シリンダー を作ることができる。
- :Euclid シリンダー空間上の Euclid 時間
Euclid 空間上での共形場理論は の Weyl 変換を行うことで、以下の計量を持つ Euclid シリンダー空間上での共形場理論と等価であるといえる。
(逆)Wick 回転 を行うと、シリンダー時空 上での場の量子論を作ることができる。
Minkowski 時空上での拡大演算子 がシリンダー時空上でのハミルトニアン になっている。
と はシリンダー時空上のエネルギーを上下させる昇降演算子。
- プライマリー状態: を作用させて消える の固有状態
- ディセンダント状態:プライマリー状態に を作用させて得られる状態
シリンダー時空上の演算子に関するエルミート共役:
状態・演算子対応
共形場理論では Minkowski 時空上のプライマリー演算子とシリンダー時空上のプライマリー状態は一対一に対応している。
状態空間が非退化な内積を持つ、ユニタリな共形場理論のシリンダー時空上の状態空間は、必ずプライマリー状態とそのディセンダントで表される最低ウェイト表現である。
Minkowski 時空上でのユニタリな共形場理論の全ての演算子は、プライマリー演算子かディセンダント演算子である。
相関関数
Euclid 場理論の相関関数:
対称性変換の生成子 があったとして、局所演算子がそれぞれ と変換するとき、Ward-Takahashi 恒等式が成り立つ。
共形不変な 1 点関数
- 並進対称性
- は時空の場所 によらない定数になる。
- 拡大対称性
- でないとすると 。
共形不変な 2 点関数
- 並進対称性
- は にしか依存しない。
- 回転対称性
- は 2 点間の距離にのみ依存する。
- 拡大対称性
- は次数 の同次式である。
- 特殊共形変換対称性
- と が両方共プライマリー演算子であることを仮定する。
- これが消えるためには である必要がある。
プライマリー場の 2 点関数は共形次元が等しいときのみゼロでない。
プライマリー演算子同士の 2 点関数の係数 は、シリンダー時空上での共形場理論の内積である。
共形不変な 3 点関数
- 並進、回転対称性
- は 2 点間の距離 にしか依存しない。
- 拡大対称性
- は の 次の同次式である。
- 特殊共形変換対称性
- は によらない定数である。
3 点関数の係数は、シリンダー時空上の量子力学の行列要素として解釈できる。
共形不変な 4 点関数
- 並進、回転、拡大対称性
- 4 点関数は 4 点間の距離 を使って次数が 次の同次式で与えられる。
- 特殊共形変換対称性
- 複比 は特殊共形変換で不変である。
共形対称性を持つ 4 点関数に と の任意関数をかけたものも共形対称性を持つ。
自由スカラー場
一般の曲がった時空中での自由スカラー場の作用:
- :計量 から作った Ricchi スカラー
- :非極小結合定数
と取れば、Weyl 変換で作用は不変となる。
Minkowski 時空での量子化と相関関数
Wick の定理
自由場の任意の多点相関関数を計算するには、相関関数中であらゆる可能な 2 点関数のペアを作って、それを 2 点関数の期待値に置き換えて和を取ればよい。
正規順序積
複合演算子が含まれていて場が同一点にいる場合の相関関数を計算する必要があるときは、同一点での 2 点関数の期待値はゼロとする。
シリンダー時空での量子化
共形対称性を持った自由スカラー場をシリンダー時空 上で量子化する。
- :球面調和関数(上のラプラシアン の固有関数)
- のとき
状態・演算子対応
シリンダー時空上の「1 粒子状態」 のエネルギーは になり、 による の回転では、スピン 表現になっている。
これは Minkowski 時空上の演算子 に対応する。
同様に、シリンダー時空上の「多粒子状態」は Minkowski 時空上の複合場に対応する。
空間埋め込み法
共形場理論における の構造を明らかにしたい。
時空の座標を 個の値 で与えられる 次元のものに拡大する。
次元で考えた理論を 次元に射影する。
- 次元の Minkowski 時空に埋め込まれた 次元の光円錐を考える。
- 光円錐上の点で座標値が比例しているものを同一視する。
- 代表元として と取ったものを Poincaé 切断と呼ぶ。
次元空間上の局所演算子 を 次元 Minkowski 時空上の場 に格上げする。
これらの場は次の性質を持つことを要請する。
- 光円錐上 で定義されている。
- 光円錐上で、次数 を持った同次関数である。
- テンソルは で既約分解される。
- テンソルは横成分しか持たない。
実際の計算の指針としては、上記を満たす 次元時空での相関関数を作って、それから Poincaré 切断を取って 次元に引き戻す。
共形代数の表現論
プライマリー演算子 を 1 つ取ってきて、それに対応するシリンダー時空上での状態 を用意する。
の無限次元表現の一つである Verma モジュールを、 の既約表現として取ったプライマリー状態 とそれに を何度も作用して得られるディセンダント状態の全てを集めたものとして定義する。
Verma モジュールの中で、ディセンダントかつプライマリーである状態を特異ベクトルと呼ぶ。
ユニタリな表現では、内積の正定値性からノルムがゼロの状態はゼロベクトルでないといけないので、ユニタリな既約表現を考えるためには Verma モジュールから、特異ベクトルとそのディセンダントを取り除く必要がある。
演算子積展開
共形場理論で を原点での演算子 で展開することを考える。
他の演算子が の領域に挿入されていないとき、 はシリンダー時空上の以下の状態に対応する。
- :シリンダー時空上のエネルギー固有状態の完全形
エネルギー状態の完全形はプライマリー状態とそれらのディセンダント状態なので、次のように書ける。
これに対して状態・演算子対応を逆に用いて、共形場理論における演算子積展開が導かれる。
展開係数 は、共形対称性から定数を除いて完全に決定されている。
共形ブロック
スカラープライマリー演算子の 4 点関数:
演算子積展開を と および と に用いる。
2 点関数を使って 4 点関数を計算することができる。
プライマリー演算子間の演算子積展開係数 を使って、共形対称性から完全に決まってしまう部分 を分離する。
4 点関数を演算子積展開で現れるプライマリー演算子の寄与の和に展開したものを の共形ブロック展開と呼び、それぞれのプライマリー演算子の寄与 を共形ブロックという。
共形ブートストラップ 1
Euclid 場の理論の相関関数の中では、整数スピンを持つボソン的な演算子を置換しても値が変わらない。
一方で、演算子積展開を使って の順番に計算すると、その対称性が損なわれている。
例えば、 と を比較するためには、 と を入れ替えればよい。
と の入れ替え、あるいは、複素座標では を に入れ替える変換になる。
演算子積展開が、演算子の置換に関して自己無撞着に 4 点関数を決定しているという条件(交差対称性)が要求される。
共形データに対する無限次元の拘束条件から一般の、あるいは特定の共形場理論に対する情報を引き出そうという試みを共形ブートストラップという。
4 つの演算子を全て同じスカラープライマリー演算子 に取ったとき、以下が成り立つ。
共形ブートストラップ 2
共形ブートストラップの問題を半正定値計画問題として解く。
実対称行列 が半正定値であるとは、全ての実ベクトル に対して、 が成り立つことで、このとき と表記する。
変数 と正定値行列 に対して以下の条件式を課す。
この条件のもとで定数ベクトル を用いて定義されたターゲット を最小化するのが半正定値計画問題(の双対)。
共形ブートストラップの半正定値計画問題への書き換え
共形ブートストラップ方程式を の周りで Taylor 展開して、それらの係数に対する連立方程式とみなす。
この等式の中で恒等演算子の部分を取り出す。
全ての に対して以下を満たす が見つかったとすると、この共形ブートストラップ方程式は決して解けないことがわかる。
を固定した値に取ると、共形ブロックとその微分は共形次元 の有理式で近似できる。
は がユニタリティバウンドを満たしていれば正の関数になっているので、 の多項式に関する不等式に条件を読み替えることができる。
で非負の多項式関数 は、必ず以下の形で表せる。
- は の単項式からなる 次元ベクトル
- と は半正定値行列
この定理を使うと、上の条件は、 の多項式として書き換えることができる。
この等式を で展開して両辺を比較すれば、次数 ごとに決まった行列 があって、スピン のそれぞれについて以下を満たす半正定値行列 が存在するという条件式が得られる。
今、考えている問題は、半正定値行列 と に対する条件のもとで の最小値を求める問題に読み替えることができる。
最小値がゼロより大きいか小さいかで、仮定が共形ブートストラップ方程式に矛盾していないかチェックできる。