物理ノート

サイエンス社「数理科学」SGCライブラリの読書メモ

数理・情報系のための整数論講義

SGCライブラリ - 58

数理・情報系のための整数論講義

木田雅成 著

2007年9月25日 初版発行

初等整数論

 {R} を環とし  {R[X]} で係数がすべて  {R} の元であるような多項式全体の集合を表す。

 {R[X]} {R} の多項式環という。

 {R} がすべての  {x,y \in R} に対して

 {xy = 0 \,\Longrightarrow\, x = 0} または  {y = 0}

をみたすとき、 {R} を整域と呼ぶ。

有理整数環

 {a (\neq 0),\,b} を整数とする。

 {ax = b} をみたす  {x \in \mathbb{Z}} があるとき、 {a} {b} の約数である、あるいは  {b} {a} の倍数であるといい  {a|b} と表す。

 {a_1,\dots,a_n} {0} でない整数とする。

 {1 \le i \le n} に対して  {d|a_i} をみたす整数  {d} {a_1,\dots,a_n} の公約数という。

さらに  {a_1,\dots,a_n} の正の公約数  {d} が、 {a_1,\dots,a_n} の任意の公約数  {c} に対して  {c|d} をみたすとき、 {d} {a_1,\dots,a_n} の最大公約数といい、 {\mathrm{gcd}\,(a_1,\dots,a_n)} あるいは  {(a_1,\dots,a_n)} とあらわす。

 {\mathrm{gcd}\,(a_1,\dots,a_n) = 1} のとき  {a_1,\dots,a_n} は互いに素であるという。

ユークリッドの互除法

 {a,\,b} を正の整数とする。

 {a_0 = 0,\,a_1 = b} とおき、さらに  {n \ge 1} に対し、

  •  {a_{n-1} = a_nq_n + a_{n + 1}}
  •  {0 \le a_{n + 1} \lt a_n}

で数列  {\{a_n\}} を定義する。

このとき、ある自然数  {N} があって  {a_{N+1} = 0} となり、 {a_N = \mathrm{gcd}\,(a,b)} が成り立つ。

イデアル

 {R} の空でない部分集合  {I} が次の2条件をみたすとき、 {I} {R} のイデアルという。

  •  {a,b \in I \,\Longrightarrow\, a + b \in I}
  •  {r \in R,\,a \in I \,\Longrightarrow\, ra \in I}

 {R} を環とするとき  {a \in R} をとって、

 {(a) = \{ar \,|\, r \in R \}}

とおくと、 {(a)} {R} のイデアルになる。

 {(a)} {a} で生成された単項イデアルと呼ぶ。

整域  {R} のすべてのイデアルが単項イデアルであるとき、 {R} を単項イデアル整域という。

イデアル  {I} が素イデアルであるとは、 {a,b \in I} に対して、以下が成り立つことをいう:

 {ab \in I \,\Rightarrow\, a \in I} または  {b \in I}

イデアル  {I} を真に含む  {R} のイデアルが  {R} だけのとき、 {I} を極大イデアルであるという。

極大イデアルは素イデアルである。

素元分解

 {R} の元で乗法に関する逆元を持つもの全体を  {R^{\ast}} で表す。

 {R^{\ast} := \{a \in R \,|\, ax = 1\,\exists x \in R\}}

この集合の元を  {R} の単元という。

 {R} を整域とし、 {a,b,c \in R} とする。

  •  {a \neq 0} とする。 {a} {b} を割るとは  {ax = b} をみたす  {x \in R} があることをいい、 {a|b} と表す。
  •  {a} {0} でも単元でもない元だとする。 {a} {R} の既約元であるとは、次が成り立つことをいう。
    •  {a = bc \,\Longrightarrow\, b \in R^{\ast}} または  {c \in R^{\ast}}
  •  {a,\,b} がともに  {0} でないとする。 {a} {b} が同伴であるとは、 {a|b} かつ  {b|a} であることをいう。

整域  {R} が次の2条件をみたすとき、一意分解整域であるという。

  •  {R} {0} でも単元でもない元  {a} はすべて有限個の既約元の積で書ける。(この分解を既約元分解と呼ぶ)
  • この既約元分解は次の意味で一意的である:
    •  {a = p_1p_2 \cdots p_r = q_1q_2 \cdots q_s} を、 {a \in R} の2通りの既約元分解とする。このとき  {r = s} で、番号をつけ直せば、 {p_i} {q_i} {i = 1,2,\dots,r}) は同伴になる。

この節の主定理は次の定理である。

単項イデアル整域は一意分解整域である。

整域  {R} の元  {p} が素元であるとは、 {p} {0} でも単元でもなくて、かつ  {p} が生成する単項イデアル  {(p)} が素イデアルであることをいう。

 {R} を整域とするとき、次が成立する。

  •  {R} の素元は常に既約元である。
  •  {R} が既約元分解の可能な整域であるとき、
    • 既約元は素元である。  {\,\Longleftrightarrow\,} 既約元分解は一意的である。

一意分解整域では、素元と既約元の概念は一致するから、既約元分解は素元分解である。

有理整数環  {Z}、体  {K} 上の多項式環  {K[X]} は単項イデアル整域であることから、以下が従う。

有理整数環  {\mathbb{Z}} と体  {K} 上の多項式環  {K[X]} は一意分解整域である。

さらに次が成立する。

  •  {1} より大きい任意の自然数は素数の積に一意的に表せる。
  • 体上のモニックな任意の一変数多項式はモニックな既約多項式の積に一意的に表せる。
    • 多項式がモニックであるとは、最高次の係数が  {1} であることである。

素イデアルは既約元で生成される単項イデアルであり、しかもそれは極大イデアルでもあることから、次が得られる。

 {\mathbb{Z}} および  {K[X]} で素イデアルと極大イデアルは一致して、以下が成り立つ:

  •  {I} {\mathbb{Z}} の素イデアル  {\,\Longleftrightarrow\,}  {I = (p)} {p} は素数)
  •  {I} {K[X]} の素イデアル  {\,\Longleftrightarrow\,}  {I = (p(X))} {p(X)} は既約多項式)

剰余環

 {a,b \in R} とする。

 {a - b \in I} が成り立つとき、 {a} {b} {I} を法として合同であるといい、 {a \equiv b \pmod I} と書く。

 {\equiv} を含む式を合同式といい、合同式による同値類は合同類と呼ばれる。

 {a \in I} とするとき、

 {a + I := \{a + x\,|\, x \in I\}}

 {a} を含む  {\bmod I} の合同類である:

 {a + I = \{b \in R \,|\, b \equiv a \pmod I\}}

以下が成り立つことから、 {R} {a + I} たちの交わりのない和集合として表される:

  •  {a + I = b + I \,\Longleftrightarrow\, a \equiv b \pmod I}
  •  {(a + I) \cap (b + I) \neq \emptyset \,\Longrightarrow\, a + I = b + I}

 {R/I} {\bmod I} の合同類の全体を表すことにする。

 {R/I := \{a + I \,|\, a \in R\}}

 {a + I,\,b + I \in R/I} に対して、和、積を

  • 和: {(a + I) + (b + I) := (a + b) + I}
  • 積: {(a + I)(b + I) := (ab) + I}

で定義すると、これは矛盾なく定義されていて、この演算で  {R/I} は可換環となる。

この環  {R/I} {R} {I} による剰余環という。

有理整数環  {\mathbb{Z}} では素イデアルであることと極大イデアルであることは同じであったので、剰余環  {\mathbb{Z}/m\mathbb{Z}} が整域であることと体であることは同じで、そのための条件は  {m} が素数であることである。

 {R} の単元の全体  {R^{\ast}} は環  {R} の積に関して群になる。

 {R^{\ast}} {R} の単元群と呼ぶ。

 {\mathbb{Z}/m\mathbb{Z}} の単元群がどのようなものか調べてみる。

$$ \begin{align} a + m \mathbb{Z} \in (\mathbb{Z}/m\mathbb{Z})^{\ast} &\Longleftrightarrow \exists x + m\mathbb{Z} \in \mathbb{Z}/m\mathbb{Z} : (a + m\mathbb{Z})(x + m\mathbb{Z}) = 1 + m\mathbb{Z} \\ &\Longleftrightarrow \exists x \in \mathbb{Z} : ax \equiv 1 \pmod m \\ &\Longleftrightarrow \exists x,y \in \mathbb{Z} : ax - 1 = my \end{align} $$

であるから、一次不定方程式  {ax + my = 1} が解を持つことが必要十分条件である。

整数  {k} に対して、不定方程式  {ax + by = k} がの整数解  {x,\,y} が存在するための必要十分条件は  {(a,b)|k} なので、以下が得られる。

 {(\mathbb{Z}/m\mathbb{Z})^{\ast} = \{a + m\mathbb{Z} \in \mathbb{Z}/m\mathbb{Z} \,|\, (a,m) = 1\}}

 {G} が有限群であるとき、 {G} の元の個数  {\# G} を群の位数という。

 {(\mathbb{Z}/m\mathbb{Z})^{\ast}} の位数を  {\varphi(m)} と書く。

 {\varphi: \mathbb{N} \to \mathbb{N}} をオイラー関数という。

 {m} が素数  {p} であるとき  {\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}} は体であるから、 {(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\ast} = (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})\backslash\{p\mathbb{Z}\}} となるので、 {\varphi(p) = p -1} となる。

 {G} を群とし、 {a \in G} とする。

 {\langle a\rangle := \{ a^n \,|\, n \in \mathbb{Z}\}}

 {G} の部分群になる。

ここで  {a^n} {n \gt 0} のときは、 {a} {n} 個の積を表し、 {n \lt 0} のときは  {a} の逆元の  {-n} 個の積  {(a^{-1})^{-n}} を表す。

また、 {e} {G} の単位元としたとき、 {a^0} = e とする。

 {\langle a\rangle} {a} で生成された巡回群といい、 {a} を巡回群の生成元という。

群の元  {a} に対し  {a^n = e} をみたす最小の自然数  {n} を元  {a} の位数といい  {\mathrm{ord}\,a} で表す。

そのような  {n} がない場合は  {\mathrm{ord}\,a = \infty} とする。

 {a \in G} の位数が  {n} なら、 {\langle a\rangle = \{e,a,\dots,a^{n-1}\}} であり、 {\#\langle a\rangle = \mathrm{ord}\,a} が成立する。

これから、 {G} が位数  {n} の有限群で、 {G} に位数が  {n} の元  {a} があれば、 {G} 自身が巡回群になる。

 {H} を群  {G} の部分群とする。

 {a,b \in G} {H} を法として左合同であるとは、 {h \in H} があって  {b = ah} となることであり、 {a \underset{l}{\sim} b} と書く。

部分群  {H} を法として左合同であることは  {G} 上の同値関係である。

 {aH := \{ah \,|\, h \in H \}}

とおくと、これは左合同による  {a} を含む同値類になる。

 {aH} の形の  {G} の部分集合を  {G} {H} に関する左剰余類という。

 {G} {H} に関する左剰余類の個数を  {[G:H]} と書いて  {H} {G} 内での指数と呼ぶ。

有限群  {G} とその任意の部分群  {H} に対して

 {\# G = [G:H]\# H}

が成り立つ。

特に部分群の位数は  {G} の位数の約数である。

 {H = \langle a\rangle} に対して定理を適用すれば、 {\mathrm{ord}\,a = \#\langle a\rangle = \# H} であることから、以下が導かれる。

ラグランジュの定理

 {G} の任意の元  {a} の位数は  {\# G} の約数である。

すなわち、 {\mathrm{ord}\,a|\# G} が任意の  {a} について成り立つ。

特に  {a^{\# G} = e} がすべての  {a \in G} について成り立つ。

 {\#(\mathbb{Z}/m\mathbb{Z})^{\ast} = \varphi(m)} であったことに注意して、 {G = (\mathbb{Z}/m\mathbb{Z})^{\ast}} に対してこの系を使うと、次の結論が得られる。

オイラーの定理

 {a + m\mathbb{Z} \in (\mathbb{Z}/m\mathbb{Z})^{\ast}} に対して、

 {(a + m\mathbb{Z})^{\varphi(m)} = 1 + m\mathbb{Z}}

合同式で書き直すと、 {m} と互いに素な整数  {a} に対して次が成り立つ。

 {a^{\varphi(m)} \equiv 1 \pmod m}

さらに  {m} が素数  {p} であるときには次が従う。

フェルマーの小定理

 {p} が素数であるとき、 {p} で割れない整数  {a} に対して、以下が成り立つ。

 {a^{p - 1} \equiv 1 \pmod p}

有限アーベル群の指標

代数体の整数論

代数体の有限性定理