物理ノート

サイエンス社「数理科学」SGCライブラリの読書メモ

非線形現象と微分方程式

SGCライブラリ - 74

非線形現象と微分方程式

パターンダイナミクスの分岐解析

小川知之 著

2010年6月25日 初版発行

はじめに

一列に並んだ箱(セル)に順番に番号を振り、 {j} 番目のセルの状態が  {X_j} で記述されるとする。

ここでは  {X_j} はセルに入っている砂の量であるとする。

セルの全体に擾乱が加えられ、微小時間  {\Delta t} の間に各セルの砂が右隣と左隣のセルにそれぞれ確率  {\Delta tD} で移動するとする。

 {\Delta t} 秒後の砂の量:

 {X_j^{\prime} = \Delta tDX_{j-1} + (1 - 2\Delta tD)X_j + \Delta tDX_{j+1}}

 {\Delta t \to 0} の極限をとれば

 {\displaystyle \frac{dX_j}{dt} = D(X_{j-1} - 2X_j + X_{j+1})}

 {X_j} は常に両脇のセルの状態の平均値に近づこうとして変化している。

パターン発生の機構

系の状態を制御するパラメーターを  {p} とする。

 {p} の値が小さいときには系は一様な状態で落ち着いているが、 {p} を大きくすると様々なパターンが観測されるようになるとする。

擾乱が減衰するか増大するかの臨界点  {p = \phi(k)} のグラフを中立安定曲線という。

 {u(t,x)} の拡散方程式

 {u_t = D_1u_{xx} + pu}

  •  {D_1}:拡散係数
  •  {p}:増殖係数

これだけでは空間的に非自明なモードへの不安定化は生じない。

もう一つ別の種  {w(t,x)} を考えて、種  {w} は種  {u} へ負のフィードバックを与え、種  {u} は種  {w} へ正のフィードバックを与えるとする。

 {w} の時間発展は  {u} の時間発展と時間スケールが異なり、非常に速く変化するとする。

 {
\begin{cases}
u_t = D_1u_{xx} + pu - sw \\
\tau w_t = D_2w_{xx} + u - w
\end{cases}
}

  •  {s}:正定数
  •  {p} {w} の反応時定数

 {\tau = 0} として、 {(u,w) = (\tilde{u},\tilde{w})e^{\lambda t + ikx}} を代入:

 {
\begin{cases}
\lambda\tilde{u} = (p - D_1k^2)\tilde{u} - s\tilde{w} \\
0 = (-1 - D_2k^2)\tilde{w} + \tilde{u}
\end{cases}
}

 {\displaystyle \lambda\tilde{u} = \left(p - D_1k^2 - \frac{s}{1 + D_2k^2}\right)\tilde{u}}

安定性の臨界は以下で与えられる:

 {\displaystyle p = D_1k^2 + \frac{s}{1 + D_2k^2} \ge 2\sqrt{\frac{D_1s}{D_2}} - \frac{D_1}{D_2}}

 {p(k)} {k = k_0 \gt 0} で最小値をとる必要十分条件は

 {\displaystyle \frac{D_2s}{D_1} \gt 1}

パターンの分岐解析:単一モード解の出現

環境変化などのパラメーターに依存する常微分方程式系を考える。

 {\dot{u} = f(u,\lambda)}

  •  {u \in \mathbb{R}^n}
  •  {\lambda \in \mathbb{R}^k}

 {f} が滑らかであれば、この微分方程式の解起動による流れは相空間  {\mathbb{R}^n} 上の力学系  {\phi: \mathbb{R} \times \mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^n} を定める。

すなわち、  {\phi(t,x_0)} {x_0} を初期値とする微分方程式系の解である。

力学系の研究対象は、不変集合( {\phi(\mathbb{R},X) = X} を満たす集合  {X})であるが、一点だけからなる不変集合を平衡点という。

すなわち、  {u_0 \in \mathbb{R}^n} が微分方程式系  {\dot{u} = f(u)} の平衡点であるとは  {f(u_0) = 0} を満たすことである。

 {\lambda_0} の近傍で  {f(u,\lambda) = 0} の解の個数が変わるとき、平衡点が  {(u_0,\lambda_0)} で(定常)分岐するという。

方程式  {f(u,\lambda) = 0} の解が  {(u_0,\lambda)} で分岐するならば、 {f} のヤコビ行列  {D_uf(u_0,\lambda_0)} {0} 固有値を持つ:

 {\det(D_uf(u_0,\lambda_0)) = 0}

微分方程式  {\dot{u} = f(u)} が平衡点  {u_0} を持つとき、その平衡点  {u_0} のまわりでの線形化方程式系:

 {\dot{v} = D_uf(u_0)v,\quad v \in \mathbb{R}^n}

平衡点  {u_0} のまわりでのヤコビ行列が虚軸上に固有値を持たないような平衡点は双曲型平衡点と呼ばれ、構造安定である。

方程式  {f(u,\lambda) = 0} の解が  {(u_0,\lambda)} で分岐するならば、 {\lambda = \lambda_0} {u_0} は双曲型ではない。

パターンの分岐解析:モード相互作用と複合モード解

分岐図を描く

振動パターンの作る構造