物理ノート

サイエンス社「数理科学」SGCライブラリの読書メモ

幾何学の量子化

SGCライブラリ - 95

幾何学の量子化

変形量子化からのアプローチ

前田吉昭・佐古彰史 共著

2012年11月25日 初版発行

準備:古典的空間を記述するために

 {C^{\infty}} 級多様体  {M} が概複素多様体であるとは、 {M} 上に次の性質をもつ滑らかなテンソル場  {J} が存在するときをいう:

  •  {M} の各点  {p} において、 {J} {(1,1)} 型テンソルである。
  •  {M} の各点  {p} において、 {J_p: T_pM \to T_pM} は線形写像であり、 {J_p^2 = -1} となる。

 {C^{\infty}} 級多様体  {M} がケーラー多様体であるとは、 {M} 上に次の性質をもつ滑らかなテンソル場  {J} {g} が存在するときをいう:

  •  {J} {M} の概複素構造である。
  •  {g} {M} のリーマン計量である。
  •  {\nabla} {g} のリーマン接続とすると、 {\nabla J = 0} を満たす。

 {M} がケーラー多様体のときに、 {\omega(X,Y) = g(JX,Y)} と置くと  {\omega} はシンプレクティック  {2}-形式を決める。

ケーラー多様体はシンプレクティック多様体の例になっている。

一般のケーラー空間の複素座標系  {(z^1,\dots,z^n)} によるケーラー計量:

 {\displaystyle g_{i\bar{j}} = \frac{\partial^2\Phi}{\partial z^i\partial\bar{z}^j}}

  •  {\Phi(z,\bar{z})}:ケーラーポテンシャル

変形量子化

ハミルトン系

 {\mathbb{R}^{2n}} {2n} 次元実ユークリッド空間とし、その座標系を  {(x^1,\dots,x^n,\xi^1,\dots,\xi^n)} とする。

 {\mathbb{R}^{2n}} 上の(標準的な)シンプレクティック形式:

 {\displaystyle \omega = \sum_{j=1}^ndx^j \wedge d\xi^j}

ハミルトンベクトル場: {X_H}

 {\omega\rfloor X_H = -dH}

  •  {H(x,\xi)}:ハミルトン関数
  •  {\omega\rfloor X_H = \omega(X_H,\cdot)} という  {1} 形式を表す。
  •  {\omega} が非退化であることから、この式は  {X_H} を定義している。

ハミルトンベクトル場  {X_H} の積分曲線が古典的な質点の軌跡を与える:

 {\displaystyle \frac{d}{dt}(x,\xi) = -X_H(x,\xi)}

ポアソン代数

シンプレクティック多様体  {(M,\omega)} の上の  {C^{\infty}} 級関数全体  {C^{\infty}} を考える。

ポアソン括弧: {\{f,g\} = X_fg}

  •  {f,g \in C^{\infty}(M)}
  •  {X_f} {f \in C^{\infty}(M)} のハミルトンベクトル場

一般に代数  {\mathcal{A}} に括弧  {\{\,,\,\}: \mathcal{A} \times \mathcal{A} \to \mathcal{A}} が定義され、以下の性質をもっているときポアソン代数という:

  •  {\{\,,\,\}: C^{\infty}(M) \times C^{\infty}(M) \to C^{\infty}(M)} は双線形写像である。
  • 反対称性: {\{f,g\} = -\{g,f\}}
  • ヤコビ恒等式: {\{f,\{g,h\}\} + \{g,\{h,f\} + \{h,\{f,g\}\} = 0}
  • 鎖則: {\{f,g \cdot h\} = \{f,g\} \cdot h + g \cdot \{f,h\}}

古典力学はポアソン代数  {(C^{\infty}(M),\cdot,\{\,,\,\})} によって表されていると考える。

これを一般化して、抽象的なポアソン代数  {(\mathcal{A},\cdot,\{\,,\,\})} を古典的な世界と考えたい。

変形量子化

 {\nu} を形式変数としたポアソン代数  {\mathcal{A}} の形式的冪級数の集合を  {\mathcal{A}[[\nu]]} で表す:

  •  {\displaystyle f = \sum_{r=0}^{\infty}f_r\nu^r}
  •  {f_r \in \mathcal{A}}

 {(\mathcal{A},\cdot,\{\,,\,\})} の変形量子化とは、 {\mathcal{A}[[\nu]]} と、次の条件をみたす  {\mathcal{A}[[\nu]]} 上の積  {\ast} の組  {(\mathcal{A}[[\nu]],\ast)} のことである:

  •  {\ast: \mathcal{A}[[\nu]] \times \mathcal{A}[[\nu]] \to \mathcal{A}[[\nu]]} は双線形、 {\nu}-双線形であり、結合律をみたす:
    •  {f \ast (g \ast h) = (f \ast g) \ast h}
    •  {f,g,h \in \mathcal{A}[[\nu]]}
  •  {f,g \in \mathcal{A}} に対し、 {f \ast g = \sum C_r(f,g)\nu^r} と表すと、以下が成立する:
    •  {\displaystyle C_0(f,g) = f \cdot g}
    •  {\displaystyle C_1(f,g) = \frac{1}{2}\{f,g\}}

変形量子化の構成

変形量子化の例

ゲージ理論の変形量子化

量子化の収束問題