SGCライブラリ - 121
対称性の自発的破れ
基礎からランダウ理論、南部理論、標準模型、ヒッグス粒子まで
菅本晶夫・曹基哲 共著
2016年1月25日 初版発行
対称性を理解する方法
対称性は「群」の概念によって理解することができる。
- 群
の定義
- A product
is defined, for
.
holds for
.
s.t.
for
.
,
s.t.
.
- A product
対称性の破れの例:正方形から長方形への微小変形
- 鏡映操作
と回転操作
の対称性
- 正方形群
- 長方形群
正方形の図形を長方形に微小変形することで対称性が破れ、背後にある群がその部分群に壊れる。
力学系の記述方法
群の操作に対して不変なハミルトニアン
によって、対称性を持つ系を記述することができる。
巨視的な力学系:統計力学
温度 の熱浴に接している力学系がエネルギー
の状態に存在する確率
:
微視的な力学系:量子力学
経路積分:時刻 に位置
を出発し、時刻
に位置
に到達するあらゆる経路を通った結果生じた波を重ね合わせる。
分配関数:
力学系における対称性とその破れ
対称性の破れによる相転移(ランダウ:1937)
原子分布が、温度変化によって正方形の密度関数 から長方形の密度関数
へ変化する現象を考える。
: 正方形群
で不変
:
の部分群
(長方形群)でのみ不変
温度 、圧力
の系では、ギッブスの自由エネルギー
が最小になる状態が選択される。
はオーダーパラメータで
のとき
。
以下のような場合を考えてみる。
for
(高温側)
(臨界温度)
for
(低温側)
for both sides
のとき
が最小となる
の値:
の状態から温度を下げると
となり、対称性の破れが説明できる。
ギンツブルグ-ランダウの超伝導模型(1950)
:超伝導における電子の集団的運動を表す波動関数
を超伝導における相転移のオーダーパラメータ
と考える。
超伝導を表す自由エネルギー:
- 高温側
:
- 低温側
:
自由エネルギー は
ゲージ変換の下で不変:
自由エネルギー の極小条件:
軸の正の部分に超伝導体を置き、外部から境界面
平面に沿って
方向に磁場をかけてみる。
で実数とすると
のとき:
での振る舞い:
:ロンドンの侵入長、
:コヒーレンス長
のとき:
磁場は超伝導体の内部に侵入すると急速に減少する。(マイスナー効果)
低温側 では
によって
ゲージ対称性が破れている。
マイスナー効果は、ゲージ対称性の破れによって電磁場が質量を持った結果と解釈できる。
相対論的に記述される系の対称性とその破れ
BCS理論(1957)
フォノンの媒介によって得られる電子間相互作用ラグランジアン密度
:フォノンの伝搬関数
電子の間にはフォノンが媒介する引力が発生する。
2つの電子はペアを組んで複合粒子になる。(クーパーペア)
相互作用の作用への寄与:4体フェルミ相互作用
NJL模型(1961)
フェルミオンの質量項 はカイラル対称性によって禁止される。
カイラル対称性が自発的に破れることで、フェルミオンが質量を獲得する。
は質量ゼロの粒子。(南部-ゴールドストーンボソン)
の存在によって、古典的には破れたかに見えたカイラル対称性は、量子論では保存される。
- ゲージ場が自発的対称性の破れにより質量を持ったとしても、ゲージ対称性は量子論では保存される。
ゲージ対称性
ゲージ不変性を持つラグランジアン
:
の
重項のディラック場
:
の
重項の複素スカラー場
ゲージ対称性と素粒子標準模型
標準模型: ゲージ対称性
クォーク、レプトン、ヒッグス場の量子数
場 | カラー | |
|
|
|
---|---|---|---|---|---|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
標準模型のラグランジアン
自発的対称性の破れ
のとき、
の真空期待値
ゲージ対称性はQEDのゲージ対称性
に破れる。
電弱対称性の自発的破れとその帰結
ヒッグス場
は質量ゼロの南部-ゴールドストーン粒子となり、弱ゲージボソン
の縦波成分として吸収される。
ボソンの質量項
ボソンの質量項
電弱対称性の自発的破れの実験的検証
観測量 | 実験データ | SMの予言 | pull |
---|---|---|---|
|
91.1875 |
||
|
2.4952 |
2.4958 | -0.25 |
|
41.540 |
41.478 | 1.67 |
|
20.767 |
20.743 | 0.98 |
|
0.01714 |
0.01647 | 0.71 |
:
ボソンの質量
:
ボソンの全崩壊幅
:電子・陽電子衝突によるハドロン対生成断面積
:
ボソンのレプトン対への崩壊率
とハドロンへの崩壊率
の比
:
過程における前方後方非対称性
ある物理量 の測定値
:中心値
:誤差
は理論(模型)による物理量
の予言値