可解な量子力学系の数理物理
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可解な量子力学系の数理物理
直交多項式の生み出す多様な展開
佐々木隆 著
2016年2月25日 初版発行
一般的な定式化
時間に依存しないハミルトニアンの固有値問題
が厳密に解けるようなポテンシャルを作り、その解を構成する方法を示す。
1次元量子力学
ハミルトニアン が有限個あるいは無限個の離散固有値を持つ場合の固有値問題を考える。
半正定値のハミルトニアンは常に因子化される。(因子化ハミルトニアン)
クラムの定理
与えられたハミルトン系 に対して、その正の離散固有値の数と同じ数だけの随伴ハミルトン系 が存在する。
と の固有関数系 と は、ダルブー・クラム(Darboux-Crum)変換で関係している。
最低エネルギー状態を削除していくことで、新しいハミルトニアン を得ることができる。
第 番目の固有関数は、ロンスキアン(Wronskian)を用いて行列式表示できる。
一般のダルブー変換
と をシュレーディンガー型の方程式の相異なる解とする。
回変形されたシュレーディンガー型の方程式の等スペクトル解
は、ロンスキアンの中に が含まれないことを意味する。
厳密可解ポテンシャルの具体例
- H:調和振動子:
- L:遠心力付きの振動子:
- J:ポッシェル・テラー:
固有関数は基底状態の固有関数 と多項式に因子化されている。
は正弦的座標 の 次の多項式。
上の例の場合、それぞれが古典直交多項式になっている。
- H:エルミート(Hermite)多項式
- L:ラゲール(Laguerre)多項式
- J:ヤコビ(Jacobi)多項式
形状不変性:可解性の十分条件
形状不変性
- 因子化ハミルトニアン:
- 固有値:
- 固有関数:
形状不変性の条件:
はパラメタのずらし。
クラムの定理:
の公式は、古典直交多項式の普遍的なロドリーグ公式とみなせる。
形状普遍性とクラムの定理より
定数 と は各多項式 の各次の具体的な係数に依存するが、その積はエネルギー固有値で決まる。
ハイゼンベルグ描像での可解性
観測可能量 のハイゼンベルグ運動方程式
正規化された直交関数系 を一つ選んで行列型に書き直す。
ハイゼンベルグ運動方程式の形式解
随伴演算子:
ほとんどの形状不変なハミルトニアンについて、正弦的座標 のハイゼンベルグ演算子解が閉じた形で得られる。
次数0から始まるどんな直交多項式も三項関係式を満たすので、因子化された固有関数に関して
つまり、演算子 は生成・消滅演算子のように固有状態を写す形で働く。
ハイゼンベルグ演算子解の正および負エネルギー部分として、消滅 および生成 演算子が取り出してみる。
はハミルトニアンと正弦的座標のみで決まる。
励起状態の固有関数 は基底状態波動関数 に、生成演算子を作用させて順番に得られる。
新しい直交多項式
可解なポテンシャルを有利的に拡張する場合には、多項式型の種解が必要となる。
多項式型の種解の種類:
- 仮想状態波動関数
- 擬仮想状態波動関数
- 飛び越し固有関数
可解な散乱問題
ポテンシャルが閉じ込め型でない場合
漸近的に平面波 になるシュレーディンガー方程式の解が正のエネルギー を持つ。
散乱問題
- (A): (全直線)
- :
- :
- 単位振幅の右向き平面波 を から送ると、振幅 で左向きの平面波 が で観測され、振幅 の右向き平面波 が で観測される。
- (B): (半直線)
- :
- 単位振幅の左向き平面波 を から送ると、それが反射されて振幅 の右向き平面波 が で観測される。
の零点、つまり透過振幅 および反射振幅 の正の虚軸上の極 が離散スペクトルに対応する。
形状不変な系の散乱振幅
- 全直線
- 半直線
離散量子力学の一般的な定式化
離散量子力学(dQM)では、ハミルトニアンに運動量演算子が指数関数 の形で現れる。
指数関数化された運動量演算子 は、波動関数に差分演算子として働く。
- 純虚数ずらし、虚離散量子力学(idQM):
- Meixner-Pollaczek(MP)多項式
- Wilson(W)多項式
- Askey-Wilson(AW)多項式
- 実数ずらし、実離散量子力学(rdQM):
- Meixner(M)多項式
- Racah(R)多項式
- q-Reach(qR)多項式
1次元dQMの力学変数 は、連続あるいは離散の値を取る。
- idQM:
- rdQM:
有限個あるいは半無限個の半正定値の離散エネルギー順位を持つとすると、ハミルトニアンは因子化される。
- dQM:
- idQM:
- rdQM:
時間に依存しない差分シュレーディンガー方程式
解は因子化 されており、基底状態の波動関数 は演算子 のゼロモードとして決定される。
差分シュレーディンガー方程式の解に周期 (idQM)あるいは (rdQM)の任意関数(擬定数)を掛けても解になっている。
idQMの場合、解の非一意性は基底状態の波動関数の2乗可積分性 およびハミルトニアンのエルミート性を課すことで除かれる。
離散量子力学での形状不変性
離散量子力学の形状不変性は、ハミルトニアン全体のスケール変換も含める。
はパラメタのずらしで、 は実で正のパラメタ。
- idQM
- rdQM
ハイゼンベルグ描像での可解性:離散量子力学
rdQMのハミルトニアンは有限次元あるいは無限次元の三重対角行列である。
rdQMの固有多項式 は差分方程式と三項関係式を満たす。(双スペクトル性を持つ。)
新しい直交多項式:離散量子力学
離散量子力学で、元々の方程式の持つ離散対称性を用いて、そのパラメタのひねりから多項式型種解を作り、多重ダルブー変換を行うことで新しい直交多項式が得られる。
可解な散乱問題:離散量子力学
離散量子力学では、閉じ込め型でない可解ポテンシャルのよく知られたものが存在しない。
- idQMの場合、固有多項式がすべて無限次元の完備な直交基底を与えるため、すべてが閉じ込め型。
- rdQMの場合、有限次元直交空間を張るものがあるが、対応する 空間も有限なので、漸近状態が作れない。
idQMでは、自明なポテンシャル が自由なハミルトニアン に対応する。
の極限で、これらの量は通常の量子力学で知られたものに帰着する。
指数関数種解
自由ハミルトニアン を 重ダルブー変換により変形することで、無反射ポテンシャルが得られる。
右向き波 の透過および反射振幅