熱方程式で学ぶ逆問題
SGCライブラリ - 62
熱方程式で学ぶ逆問題
Fourier 解析、関数解析から数値解析まで
山本昌宏・金成煥 共著
2008年3月25日 初版発行
熱方程式
断面積が一定値である長さが の金属の棒を考える。
棒の長さ方向に -座標をとる。
熱伝導現象は -座標と時間 によって決まるものと仮定する。
- :単位長さあたりの熱エネルギー密度
- :熱流束
- :単位時間あたりの熱源の強さ
- :場所 、時刻 における温度
- :棒の単位長さあたりの質量
- :棒の場所 における比熱
- :熱伝導率
熱方程式:
一様な棒の場合:
熱源が存在しない場合:
- :熱拡散率
での境界条件:
- 温度指定:Dirichlet 境界条件
- 熱流束指定:Neumann 境界条件
- 熱伝達(Newton の冷却の法則):混合型境界条件
- :熱伝導率
- :外気温度
- 放射伝熱境界条件
- :ある物理定数
- :外気温度
Fourier 級数による熱方程式の解法
を閉区間 で定義された関数からなる列とする。
各 を固定するたびに、実数の列 が収束するとする。
そのとき、 における関数 を以下で定める:
関数列 は区間 で、関数 に各点収束するという。
以下を満たすとき、関数列 は関数 に区間 で一様収束するという。
関数の級数 が で各点収束するとは、 で定まる部分和 が において、ある関数 に各点収束することを意味する。
が で一様収束するとは、 が で一様収束することをいう。
がすべての に対して収束するとき、絶対収束するという。
Fourier 級数
で次を満たす関数 を考える:
与えられた関数 を三角級数で近似することを考える。
係数 が以下で定まっているとき、三角級数を区間 における関数 の Fourier 級数と呼ぶ。
これらの係数を、考えている三角関数系に関する の Fourier 係数と呼ぶ。
Fourier 級数の各点収束
は区分的になめらかであるとする。
の Fourier 級数は、 の右側極限値と左側極限値の平均に収束する:
特に が で連続であれば、級数は で収束する:
Fourier 級数の絶対一様収束
は区分的になめらかとし、連続であるとする。
そのとき、 の Fourier 級数は、 に で絶対かつ一様に収束する。
しかも
関数解析からの準備
Banach 空間
ノルム空間とは、複素数上のベクトル空間 であって、以下の性質をもつ から への関数 が定まっているものである:
- すべての に対して、
- すべての に対して
- に対して、
をノルムと呼ぶ。
ノルム空間 における列 が、 のとき、ある要素 に収束するとは、 となることをいう。
ノルム空間 における列 が Cauchy 列であるとは、 となることをいう。
すべての Cauchy 列が収束するようなノルム空間を完備であると呼ぶ。
完備なノルム空間を Banach 空間と呼ぶ。
Hilbert 空間
以下、、ただし に対して、 とおいて、 を の共役複素数と呼ぶ。
複素数体上のベクトル空間 は、次の4つの性質をもつ複素数値関数 が で定義されているとき、内積空間と呼ばれる:
- かつ
- すべての に対して
- すべての と に対して
- すべての に対して
を内積と呼ぶ。
Schwarz の不等式
- が内積空間のベクトルならば
- 内積空間は、 をノルムにもつノルム空間である。
内積から定まるノルムによって完備である内積空間を Hilbert 空間と呼ぶ。
内積空間のベクトル は のとき、直交するという。
は かつ ならば であるとき、直交系であるという。
さらに、すべての に対して ならば、正規直交系であるという。
を Hilbert 空間 の正規直交系とする。
そのとき、次は同値である:
- すべての に対して、 ならば、
- すべての に対して、
- すべての に対して、
これらを満たす正規直交系を正規直交基底と呼ぶ。
係数 を に関する の Fourier 係数と呼ぶ。